「喜如嘉の芭蕉布」の作り方

更新日:2023年10月24日

※本記事内でご紹介している画像は1枚目を除き、大宜味村立芭蕉布会館及び平良敏子芭蕉布工房で撮影した画像ではありません

「喜如嘉(きじょか)の芭蕉布」作業工程:糸芭蕉の栽培

原木(※)栽培

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実芭蕉(バナナ)、花芭蕉、糸芭蕉とさまざまなバショウ科の植物があるなか、芭蕉布づくりに用いるものは糸芭蕉です。

 

野生の糸芭蕉は繊維が硬いため、今は「喜如嘉の芭蕉布」にはすべて喜如嘉芭蕉布事業協同組合が育成したものを原材料として使っています。糸芭蕉は一度植えれば地下茎で増え続け、数十年間は植え替える必要がありません。ただし、最初の3~4年間は繊維が粗く、上質な糸は採れません。

また野生のままでは繊維が硬くなるため、「喜如嘉の芭蕉布」には鶏糞などの施肥のほか、葉落としや芯止めなどを行い品質の向上を図っています。

 

※糸芭蕉は多年草のため正しくは木ではありません

糸芭蕉の葉落とし・芯止め

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↑子株から芽を出した糸芭蕉

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↑芯止めを行った糸芭蕉の偽茎。生命力が強く、切り落としたそばから伸びてくる

糸芭蕉の葉落としと芯止めは、根と先端の太さを一定にし、繊維を柔らかくするため、年2〜3回、5〜9月にかけて行われます。これを怠るとすぐに繊維の質が劣化してしまいます。

糸芭蕉の苧倒し(うーとーし)

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↑2023〜2024年にかけての、「喜如嘉の芭蕉布」の苧倒し予定日についての案内文

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↑トーバサーの花。バナナと似た実には大きな種がたくさん入っている

「苧(うー)」とは糸芭蕉の繊維のことで、これを収穫する作業を「苧倒し(うーとーし)」と呼びます。

苧倒しに最適な時期は、毎年10月から翌年2月頃。これを過ぎると繊維が硬くなってしまいます。また、熟し過ぎた糸芭蕉は「とーばさー」といい、これも品質が落ちると見なされています。

糸芭蕉の苧(うー)剥ぎ

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↑根の切り口に切れ込みを入れる「口割(くちわい)」

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↑皮を一枚ずつ分けてから、「口割」で入れた切れ込みに沿って表側と裏側の二枚に剥がす。芭蕉布づくりで使うのは表側のみ

「苧剥ぎ」とは、切り倒した芭蕉の皮を剥ぐ作業のこと。根元を上にして表から1枚ずつ剥いでいきます。その皮は「喜如嘉の芭蕉布」では4種類に分別されます。

 

一番外側の緑色が残っているところは「うわーはー(上皮)」と呼ばれ、座布団地やクッション、テーブルクロスなどに使われます。
次に剥がれる「なはうー(中苧)」は帯やネクタイの材料に、3番めの皮は「なはぐー(中子)」と呼ばれる上質な部分で、主に着物の生地になります。
最後に採れる芯に最も近い部分は「きやぎ」といい、とても柔らかくきれいに見えますが「なはぐー」と混ぜて織ると茶色に変色して布にムラができるため、主に染色糸として利用されます。

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↑左から、うわーはー、はなうー、なはぐー、きやぎ

「喜如嘉の芭蕉布」作業工程:苧(うー)炊き

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苧剥ぎを経て分別された苧は、繊維の強度がそれぞれ異なるため、別々に煮沸します。「苧炊き」では、大きな鍋で灰汁を入れた水を沸騰させ、丈夫な縄を底に敷いた上に束ねた苧を入れて、蓋をして数時間煮ます。

苧炊きは灰汁の濃度の加減が非常に難しい作業です。アルカリ度が強いと繊維が切れてしまいますし、逆に低いと長時間かけても煮えません。ベテランでも最後まで気が抜けない工程です。

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↑苧焚きを終えた苧

「喜如嘉の芭蕉布」作業工程:苧(うー)引き

煮上がった苧は、水で洗って灰汁を落とします。これから繊維を取り出す作業が「苧引き」です。

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↑えーび(竹ばさみ)

1枚の原皮を2〜3枚に裂いて左手に持ち、右手に「えーび」と呼ばれる竹ばさみを持って、皮の真ん中あたりをはさみ、根の方へ向けて2〜3回しごきます。こうして不純物を取り除きながら、柔らかい繊維は緯糸用に、硬い繊維や色の付いているものは経糸用に選り分けておきます。

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↑不純物を取り除いた苧

苧(うー)干し

選別した繊維は、風の当たらない日陰で竿に干します。竿の中心から右側が経糸用、左側が緯糸用と決められています。

「喜如嘉の芭蕉布」作業工程:チング巻き

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↑繊維を巻いて形作る「チング」

「チング」とは、苧を毬状に丸めたもののこと。繊維を水に浸すとき、長いままでは扱いづらいため、毬状に成形します。

作り方は、繊維を2〜3本ずつ左手の親指に巻きつけていきます。毛羽立たないように、繊維の根元の方から巻いていくのがポイントです。このときも、硬い繊維や色の付いた繊維は取り分けておきます。

巻き終わったチングは、中に紐を通して吊るしておきます。

「喜如嘉の芭蕉布」作業工程:苧績(うーう)み

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↑水に浸す時間は職人により異なる

チングから糸をつくることを「苧績み」といいます。

まずは「苧ふっかしむん」と呼ばれる鉢状の容器に水、またはお湯を入れて、10~30分ほどチングを浸したのちに軽く絞ります。

右手に「しーぐ(小刀)」を持ち、筋に沿って繊維を裂いていきます。糸の太さは、その糸を用いて作りたいものに応じて決められますが、一般に「うゎーはー」は太く、「なはうー」「なはぐー」の順に細く績みます。
このとき着尺用の「なはぐー」は、柔らかいもの、硬いもの、色付きのものなどに分けて績んでいきます。

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↑結び目の端は短く切っておく。結んだら、軽く引っ張って抜けないか確認

糸の結び方は機(はた)結びで、抜けないように強く引き、結び目はできるだけ短く切ります。反物の品質は、糸が均一に績まれているかどうか、ムラの有無などで左右されます。このため苧績みは慎重な作業が要求され、芭蕉布の制作工程では最も時間がかかります。

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↑初心者が積んだ苧です

管巻き

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緯糸にするもののなかでも地糸は、撚りをかけずに手巻きをします。

「うんぞーき」という竹かごに入れた苧の上に、繊維がもつれないように小豆や米粒をのせて、根元の方から糸を引き出していきます。

左手に持った管串の割れ目に糸をかけて留め、それを回しながら右手で糸を繭状に巻きます。撚りをかけない糸は毛羽立ちますが、この方法だと糸は常に中から出てくるため、引っ張られたりすることもありません。

「喜如嘉の芭蕉布」作業工程:撚り掛け

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↑しまくとぅば(沖縄の方言)で「やーま」と呼ぶ糸撚り機。昔は竹と木で作られていたが、現在では金属製のものも登場

経(たて)糸と緯絣(よこかすり)糸は、毛羽立ちを防いで丈夫にするため、霧吹きをかけながら撚りをかけます。

撚り掛けの回数は、緯絣糸は3回程度、経糸は4〜5回程度が目安ですが、撚り掛け機の大きさなども踏まえて調整します。

撚りが甘すぎると毛羽立ちがひどくて織りにくく、また強すぎると打ち込めずに絣合わせが難しくなります。布面の仕上がりも良くありません。

「喜如嘉の芭蕉布」作業工程:整経

撚り掛けをした糸は湿気を吸っていて傷みやすいため、すぐに「ハシ」という道具で整経します。

ここまでの工程を経て、糸は何度も選別されてきましたが、まだ色や太さに微妙な違いがあります。整経は布に織られたときのムラを防ぐための作業で、経糸は4本立てで、緯絣糸は1本ずつ行います。

芭蕉糸は綿や絹に比べて繊維が硬く、初心者には扱いが難しいです。

「喜如嘉の芭蕉布」作業工程:煮綛(にーがしー)

諸染(むるずみ)糸と絣糸は、灰汁で2〜5分ほど煮て柔らかくします。その後、よく水洗いしたら軽く絞ってから竿にかけて干しておきます。

「喜如嘉の芭蕉布」作業工程:絣結び

柄に合わせて“小綴じ”“大綴じ”を施した絣用の糸は、まっすぐに引っ張って固定します。

尺串(※)を絣模様に染める糸に当てがいながら、「うばさがら」と呼ばれる糸芭蕉の皮の裏側を1〜2枚巻きつけて、その上から紐で固く縛っていきます。
このときに紐を強く縛りすぎると糸が切れてしまいますし、弱いと染色がにじんでしまいます。
また、尺串の当てがい方が一定でないと、最終的に絣の柄が合わなくなるなど、熟練を要する工程です。

藍染の場合は、結んだ部分を重ねて輪状にして、糸で固定して藍瓶に入る大きさにします。
また赤染(車輪梅染)の場合も、作業がしやすいように何カ所か粗く結んでおきます。

 

※絣の模様の寸法どおりに印をつけた棒のこと

「喜如嘉の芭蕉布」作業工程:染色

「喜如嘉の芭蕉布」をつくる際には、染料として、主に「てーち(車輪梅)」と「えー(琉球藍)」を用います。「ふくぎ(福木)」や「そうしじゅ(総思樹)」を使うことも。

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↑ふくぎ。葉ではなく幹の樹皮を使って染めることが多い

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↑そうしじゅ。こちらも樹皮で染めるのが一般的

てーち(車輪梅)染め

喜如嘉の山には長葉車輪梅と丸葉車輪梅とが自生していますが、丸葉のほうが芭蕉布の染料に適しています。

大鍋に細かく割った木片を入れて、全体が浸る程度の水を加え、10時間ほど煎じます。
沸騰したら、発色を促すために灰汁の上澄み液を加えます。3〜4回水を足しながら煮込み、煮詰まったら別の容器に移します。

染液の温度が25℃くらいに下がったら、よく洗った絣糸を10〜20分ほど浸した後、軽く絞って蒸し器で10〜15分間蒸します。蒸し上がったら、竿にはかけず寝かせて干します。

このとき、染液の温度が高すぎても、また蒸し過ぎたり乾きすぎていても、液が絣模様の部分に浸透してしまいます。常に8分乾きの状態で染液に浸して、蒸し加減にも注意しなければなりません。

糸を美しく染め上げるため、この作業を30〜40回繰り返します。最後に海水で洗って色を固定させたら、水洗いをしてから完全に乾かします。

えー(琉球藍)染め

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藍玉30kg、その5倍程度の水、水飴150g、泡盛約2合、それに上質の灰汁の上澄み液か苛性ソーダ250gを入れて撹拌し、11〜12ph(ペーハー)の溶液をつくります。手に液を1〜2滴落としてみて、さらっと流れるほどの濃さにします。

「喜如嘉の芭蕉布」作業工程:絣解き

染め上がった糸は結びを解いて、霧吹きで湿気を与えてから「うばさがら」を外します。

経絣糸は打ち込みをほどき、仮筬(かりおさ)通しに備えます。

「喜如嘉の芭蕉布」作業工程:糸繰り

諸染糸や緯絣糸は湿気を与えてから、杭の間に糸を張り、枠に巻き取っていきます。巻き取った糸はもう一度、経管に巻き、それから更に緯管に巻き取ります。

「喜如嘉の芭蕉布」作業工程:仮筬通し

整経した地糸に、縞(しま)用の諸染糸や経絣糸を組み合わせて筬に通す工程を「仮筬通し」といいます。

経緯絣では、緯絣の糸を筬にしっかりと巻き付けて、それに合わせて経糸を筬に通していきます。この際、緯絣糸が寸法通りに結ばれていないと、規格に合わない布ができてしまいます。

「喜如嘉の芭蕉布」作業工程:巻き取り

仮筬通しを済ませた糸は、「まちゃ(緒巻)」の棒に「ふす(綛[かせ]の先)」を通し、「前あじ(綾竹)」と「本あじ」を取ります。絣がねじれないよう、棒の根元でしっかりと結びます。

このとき、糸の方向に対して常に緒巻が直角になるように、「布巻きあじまー」を持って巻き取っていきます。綾竹を自在に動かしたり、糸のもつれをほどくために「さばき(櫛)」を持って手伝う人が必要です。

一定の調子で巻き取られないと、経絣がずれたり織り上がりに影響するため、ここでも熟練した技術とパートナーとの息が合った作業が必要です。

「喜如嘉の芭蕉布」作業工程:綜絖(ふぇえー)通し

巻き取られた糸から筬を外し、「まちゃ」を高機(たかはた)の上に置いて「綜絖(ふぇえー)通し」を行います。

経糸の本数は「ヨミ(1ヨミ=40本)」という単位を用いますが、同じヨミでも綜絖のほうが筬の本数より多いときは、全体に万遍なく振り分けます。

この作業は「喜如嘉の芭蕉布」をつくるときは一人で行いますが、上糸と下糸の組を取り違えると糸目が開かなくなるので、細心の注意が求められます。

「喜如嘉の芭蕉布」作業工程:筬通し

綜絖に通した糸は一対ずつ順序よく筬に通していく。

「喜如嘉の芭蕉布」作業工程:織り

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↑織りに使う杼。竹製の“おさえ”を自作して用いる

芭蕉の糸は乾燥するとすぐに切れるため、緯糸は織る前に軽く水に浸し、経糸は絶えず霧吹きで湿気を与えながら作業する。

織りには5〜6月の梅雨の時季が最も適しており、雨の日や朝晩、露の降りる頃が良いとされる。反対に北風が吹いて空気の乾燥する冬場や、陽の照りつける日中は織りにくい。

この織りの作業では、万が一、それまでの工程でミスがあった場合、苧績み、撚り掛け、絣結び、巻き取り等、どこでどんな不手際があったかすぐにわかってしまう。
例えば糸の結びが甘いと繋ぎ目が解けてしまうほか、撚りが甘いと毛羽立つし、逆に強すぎると打ち込みが効かず、布面がきれいに仕上がらない。太さがまちまちな糸や途中で切れた糸は、そのたびに繋ぎ換えなければなりません。

織り上がった反物は、切れている糸を改めて調べて繕い、織り込まれた「ふちき(けば)」を丁寧に針で取り除きます。また、織り滲みがあれば洗濯のときにわかりやすいように印を付けておきます。

織りに要する日数は、人や物によって差がありますが、おおよそ2〜4週間程度です。綿や絹に比べて切れやすいので、織りそのものより経糸の調子を整えるのに時間がかかります。

「喜如嘉の芭蕉布」作業工程:洗濯

織り上がった反物を灰汁で煮立てて、最後の仕上げをするまでの工程を、喜如嘉では「洗濯」と呼んでいます。

汚れを落とす

繕いを済ませた反物は石鹸とタワシでよくこすり、汚れや織り滲みをきれいに洗い落とします。

灰汁で煮る

大鍋で沸騰させた上質の灰汁に、反物を1〜2反入れて数十分間煮ます。
このとき、木灰の質が悪いといくら量を増やしても煮えません。アルカリ度が高いと煮えるのは早いですが、木灰の塊が反物に付着して穴が開いたり、煮え方にムラが生じることもあるので、絶えず棒で撹拌しなければなりません。充分に精錬された反物は、端を縦に裂くと簡単に裂けるようになります。
鍋から取り出した反物は灰の滓を水でよく洗い落として竿に干します。

ゆなじに浸す

「ゆなじ」とは、米粥と米粉に水を加えて発酵させた液のこと。灰汁の染み込んだ布を中和させるために用います。2時間ほど浸けますが、ゆなじの発酵が不十分だと、製品にしてからの強度に問題が生じてしまいます。

干す

ゆなじから出した反物はよく水で洗い、風通しの良いところで七分干しにします。

反物を取り込んだら、2尺ほどの長さにたたみます。全体的に平均して湿気が行き渡るように、しばらく布でくるんで押板をしたり、お尻の下に敷いたりしておきます。

粗ちまんき

七分乾きの反物を、斜めの方向に交互に手で引き伸ばします。これを「粗ちまんき」といい、次に両耳を親指と人差し指で引き伸ばして布幅を出します。

「喜如嘉の芭蕉布」作業工程:布引き

反物の両端を二人で持ち、呼吸を合わせて4〜5回引っ張って丈を引き出します。

布目を整える

湯呑み茶碗を伏せて布をしっかりこすります。平らに伸ばしながら、結び目を押さえて目立たないようにします。

干す

短時間乾かしてから、再び2尺の幅にたたみます。

またちまんき

「粗ちまんき」ほどではありませんが、もう一度規定の幅になるよう、斜めや横に引っ張ります。

布引き

再度二人で布を引っ張り、規定の丈にします。

布目を整える

仕上げとして、改めて片面だけ湯呑み茶碗で布をこすります。

アイロンかけ

折り目を伸ばすためにスチームアイロンをかけてから、湿気を完全に取り除きます。